コラム

今月のコラム

2008年 8月号

歯科医院経営を考える(371)
~積極思考~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 新幹線の新神戸駅下を潜り抜けて、鬱蒼とした林の急な坂道を15分ほど登ると、徳光禅院というお寺がある。喧騒とした町とは無縁の静寂な世界である。7月19日~21日の3日間、そこで財団法人天風会の研修(天風会では行修会とか修練会という)を受けてきた。天風会は中村天風(1876~1968年)が創設した公益法人(現在の理事長は衆議院議員の尾身幸次氏)である。中村天風は数奇な運命をたどった人である。

 

 先ず日清、日露戦争では軍事探偵(スパイ)として活躍し、その後病(結核)を得て、それを治すためにアメリカのコロンビア大学で基礎医学を学び、血を吐きながらヨーロッパにまで足を伸ばして有名な哲学者や科学者に会って結核に勝つ方法や人生についての考えを訪ね歩いたが果たせず、諦めて船で日本に帰ろうとエジプトまで来たとき、ヨガの聖者カリアッパ師に出会い、ヒマラヤ山脈の第三峰、カンチェンジュンガの麓のヨガの修行場に連れて行かれて、そこで3年近く瞑想したり自分と対峙することで生きる意味や、生命の持つ意味や強さを、体験を通して会得するのである。それまで1日に肉や鳥を110g、卵6個、牛乳6合を飲み3500kcalほども口にしていたのに治らなかった結核が、大自然の中でヨガの修行をしだしてからは稗と果物しか口にせず、1000kcalほどしか摂取していないのに、ぐんぐんよくなって結核を治してしまう。こうした体験を基にして「心身統一」という考えを体系化した。生命の根本は「気」(宇宙霊)であり、それは電気製品が電気によって動くように、「気」を体内に取り入れる事によって生命を維持しているのであり、従って心身を自然法則に順応させて生きることだと断じている。生命にはもともと自然治癒力というものがある。それを最大限に活かすには、精神的な思考を積極化することだという。医学は病気の進行を止めるに過ぎない。毎日明るく、元気に、愉快に、感謝して過ごし、積極的に生きる事によって心身ともに健康になるという。だから天風会では「ことば」を重視する。「暑いなあ、汗が出て疲れるなあ」と言ったのではマイナスの自己暗示である。このような言葉が自身の思考をマイナスにし、消極的にしていくという。こういう時は「暑いけれど、老廃物が汗と共に出て気持ちがいいなあ」と言う。

 

 さて、目を今日の歯科界に転じるとマイナス思考の渦である。「点数が下がった」「収入が落ちた」「将来が見通せない」等々。思考が全て後ろ向きになっている。「事実だから仕様がないではないか」と言われるかもしれないが、事実は事実として受け入れるとしても、「何故患者が来てくれるのか」「親の代から何故来院してくれるのか」「どうして他の医院にいかずにうちの医院に来てくれるのか」を考えるべきである。どうしたら患者が納得し、喜んでくれるのか。どうしたら患者の役に立つことができるのか。歯周・予防のメンテナンスという方法もある。スタッフと共に明るく、元気にアイデアを出し、工夫し、「ああしてみよう」「こうしてみよう」と考え、行動を起こしてみることである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2008年8月号より転載〕