コラム

今月のコラム

2012年 11月号

歯科医院経営を考える(422)
~子育てしぐさ~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 江戸時代には丁稚小僧を優秀な商人に育てる「子育てしぐさ」として成長や自立を手助けする養育や鍛育が行われていた。(現在は知育に重点が置かれている)その教育方針は「三つ心、六つ躾(しつけ)、九つ言葉、十二文、十五理(ことわり)で末決まる」とされていたという。

 

最初の「三つ心」とは、3歳までに心の豊かさを教えなさいということである。江戸の町人達は、人間は脳と体と心の三つから成っていると考え、生まれた時には心と体がつながっていないと考えた。心は脳と体を結びつける糸のようなものと考え、一日一日、心の豊かさや感性を磨いてあげて心の糸を紡いでいけば、3年で千本以上の糸が出来上がり切れる心配はない。3歳までにこの糸を綿密に張ってしまえば、豊かな心に従った善い行い、感情豊かな表情のできる子が育つ。「六つの躾」は3歳までに張った糸を自由に動かす動かし方、躾をしなさいということで、「挨拶をしなさい」「席を譲りなさい」「お礼を言いなさい」等々教え込み、癖になるまで繰り返し訓練し実践させ、身につけさせた。「九つ言葉」とは、9歳までには商人の子供らしい挨拶、大人の言葉、世辞が言えるようにしたという。ここでいう世辞は「お世辞」ではなく、相手を慮る言葉、「例えば「○○さん今日は。今日はお暑いですね」という挨拶に次いで「お身体は大丈夫ですか」などの相手を慮る言葉を付け加えるということである。昔は9歳で丁稚奉公に出されたから挨拶ができるのは当たり前で、商人の将来性は、ほとんどこの歳で決まったといわれている。「十二文」とは12歳までに文章を書けるようにしなさいということである。主人の代書ができるように「挨拶状」「お礼状」「お詫び状」等それぞれ季節の挨拶を入れて、きちんと書けるように教育した。「十五理(ことわり)で末決まる」とは15歳で元服したから、それまでに世の中の理、物事の道理(経済、物理、化学、心理学等)が理解できるように教育したのである。この歳になると、商人に向く子供や、学者の道に進む子供等子供の個性を尊重し能力を洞察し、将来を見抜いて、その子にあった道に振り分けるのが寺子屋の師匠の務めだったそうである。

 

ここで「心、躾、言葉、文、理」は順番が重要で、最初に心を取り上げていることに注目したい。歯科医院のスタッフ教育でも同じで、心すなわち感性を高める教育、それも意識を相手に向ける教育が不可欠である。その上でどのような言葉をかけ、どのような対応をするかを教えることだ。相手への関心を高める教育には、院長や主任等指導者が常に問いかける習慣をつけるのが一番である。「この間来たAさんが帰り際に、○○と言ってムッとした態度をとったのは何故だと思う」とか「患者のBさんは、後で来院したCさんが先に呼ばれた時、変な顔をしたのは何故だと思う?」等々常に意識を患者に向けていることの重要性を教えていくことである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2012年11月号より転載〕