コラム

今月のコラム

2011年 3月号

歯科医院経営を考える(402)
~高次脳機能障害のリハビリ~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 「閉じこもらないで、一歩踏み出そう」というテーマの高次脳機能障害リハビリ講習会に参加した。脳神経外科医として活躍され、現在大阪で開業、高次脳機能障害者のグループ療法を推進されている山口研一朗先生の話を聞く機会があった。「脳は広大な宇宙である」と言われる。人間の大脳皮質には140億個の神経細胞(ニューロン)があり、その一つの神経細胞には1万のシナプス(細胞と細胞の接点)があるという。脳細胞に情報が伝達される道筋の組み合わせは10の10,000乗になり、膨大な容量だそうである。この脳は生命誕生以来35億年の経過の中で完成されてきたそうで、しかもこの脳は受精後母親の胎内において280日で35億年の進化の歴史を辿って誕生するのだという。脳というものはなんと神秘なものかと驚くばかりである。

 

 人は直立二足歩行することで手の解放と発達が進み、そのことがまた脳の発育を促し、咽頭が下がることで発音をすることが可能となり言葉を得た。特に手の親指と他の指が90度で対向するという位置関係が、親指と他の指とにより複雑に手を使うことができるようになり、それが前頭連合野、運動連合野の発達を促し道具の使用と作成を可能にした。他の哺乳動物に比べて人間は言葉を見つけ、言語による他者とのコミュニケーションを交わすことができたことが決定的となり、それが集団、共同生活を可能にしたという。

 

 最近は高次脳機能障害や外傷性脳機能障害について全国的に注目されるようになってきた。そうした動向から交通事故による前頭葉の損傷等により障害に苦し々でいる人を周囲でも多く見かけるようになった。前頭葉の損傷では事故後落着きがなくなるとか、衝動的になる等行動を抑制する機能の低下や記憶障害、何もする気がなくなる等が報告されている。また側頭葉の損傷では知能も維持され人格も保たれるものの記憶が残せなくなる等が報告されている。

 

 山口先生の実践されている高次脳機能障害者を対象にした「グループ療法」が、スタッフ教育の参考になると思う。勿論正常者であるからそのまま使えるというものではないが、考え方が参考になる。リハビリの目的は「気づき」にあるという。「気づいていない」状況から→「漠然とした気づき」→「知的気づき」→「体験的気づき」→「予測的気づき」により自己認識・自己表現を学ぶ。そのために①自らの身の回りに起こったことを文章にする。②どのような行動が問題を起こしたのかを考える。③問題が生じたことに対して内省をする。自分の行動の何が問題だったのか。④「振り返り」の中で文章として記録する。こうした思考方法は正常者でも同じである。その他、「感情のコントロールの方法」、「他者と的確な距離を保つ」、「他者とのコミュニケーションを円滑に営む」、「共通の課題に関する触れ合い、語り合い」、「社会的ルールを守る」等が具体的にグループで話し合われている。医院のスタッフ教育も基本的には同じではないかと思う。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2011年 3月号より転載〕