コラム

今月のコラム

2011年 2月号

歯科医院経営を考える(401)
~生き残るのは若い人材力~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 国際政治学者の高坂正尭先生の「文明が衰亡するとき」によれば、13~14世紀の地中海、世界に君臨したベネティア(ベニス)は16世紀後半以後には「内なる変化」にさらされ、喜望峰が発見されるという当時の「グローバル化」を見誤り「守旧的性格」が強まって、過去の蓄積で生活を享受しようという風潮が蔓延し、貴族男子の未婚率が60%に達したという。「生活水準を維持したいという気持ちから子孫を増やさない」ためだったというのである。なにやら今の日本と酷似しているように思う。ベネティアという国は結局衰退し滅びてしまうが、保守的な後ろ向きの姿勢では国は活性化しないということである。

 

 昨年4月、米ワシントン・ポスト紙が「2000年以来、米大学における日本人学生数が減り続け、学部生の数が52%減少、大学院生の数が27%減少した。一昨年秋(注:’09年)ハーバード大学の学部に入学した日本人は1人だった」と報じて話題になった。同紙によれば、日本人が減少する一方、中国、韓国、インドからの学生数は倍以上に増加。同紙は日本人減少の理由を「学生の安定志向が高まり、冒険心が薄れたため」とし、日本は「草食動物の国」に衰退したと断じた。昨年3月に来日したハーバード大学のドリュー・ギルピン・ファウスト氏は「日本の学生や教師は海外で冒険するより、快適な国内にいることを好む傾向があるように感じた」と語っている。なおハーバード大学に合格した,’10年の合格者数は5人だったそうである。(中国人が36人、韓国人が42人)何もハーバード大学が全てではないが、ハーバード大学を卒業してその後、多くの国の指導者に育っている事実を見れば世界中から優秀な学生が集まり、交流することで将来の人脈構築、従って情報のネットワーク作りに極めて重要な意味を持つことになると思う。国を指導する人材ならばこのような大学に進むべきだし、国も支援するべきだと思う。

 

 今日本は大きな曲がり角に直面している。大企業は国外に進出し、系列の中小企業も出ていかざるを得ない環境にある。パナソニックは2011年採用者数を1390人と公表しているが、うち国内が290人(対前年比210人の減少)、海外で1100人(同352人増)であり、楽天やユニクロは社内の公用語を英語にするという。キャノンは円高によって輸出の採算が取れなくなってきていることから「最先端の生産技術」を海外に移転させるという。優秀な大企業ほど国の枠を外れてドンドン海外に出ていく状況にある。従って国内の求人数は減少せざるを得ず、若者の失業が増えてきている。若年層の人口減少と高齢人口の増加、所得格差の拡大、価値観の多様化が急速に進むと思う。歯科医院経営環境も大きく変わる。その環境の中で生き残れるのは、優秀な人材を揃えて、その若い力を思う存分発揮させる職場環境を作り上げた歯科医院だけではないか。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2011年 2月号より転載〕