コラム

今月のコラム

2009年 8月号

歯科医院経営を考える(383)
~医療の品質と医療費負担~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 平成20年の診療行為別に見た1レセプト当たりの点数と構成比を見ると、1レセプト当たり1285.5点、前年比伸び率は4.1%のマイナスである。その内訳で一番大きい比率を占めるのが「歯冠修復及び欠損補綴」で、550.7点(構成比42.8%)である。前年の平成19年それと比較してみると、619.2点(構成比46.2%)で68.5点(3.4%)も減少している。5年前の平成15年の「歯冠修復及び欠損補綴」は、693.9点(47.7%)であるから5年間に143.2点、構成比で4.9%の減少となっている。何よりも平成15年の1件当たりの点数が1452.6点で、167.1点減少、率にして11.6%も減少していることだ。1日の患者数40~50人(Dr2人)の知り合いの歯科医院の現状を見ていると、最近治療が忙しい割りには点数が上がらなくなってきており、逆に忙しい日ほど点数が下がるという日がある、という現状に驚いている。もう抜き差しならない時点まで来ているように思うが、これ以上下がると、治療手順まで変更しなければならなくなるのではないか。このような状況は患者にとって不幸なことであり、歯科医院にとっても不幸なことだと思う。根管治療や処置といった基礎的な治療の点数を引き上げ、じっくり時間をかけて高い品質の治療ができる点数にするべきであり、その上でどうしても医療費が膨張するようであるなら、補綴の金属や技工料は保険から除外するという方法も考えるべきではないか。このような点数に対して「もういい加減にしてくれ!」と声をあげるべきではないかと思う。

 

 一橋大学教授の井伊先生が、日本歯科医師会雑誌に「データ一に基づいた政策論議の重要性」で、二つの問題点を指摘されている。一つは「予防が保険適用ではないこと」もう一つは「歯科診療を安く受けられることは良いのですが、保険診療があまりにも安すぎるということです」と書かれている。そうして先進国平均価格の4分の1から10分の1であり、安すぎるために診療時間は短くなり、治療の質の低下を招くと指摘されている。

 

 筆者も何回か歯の治療を受けて思うのだが、キチンと治したいと思うなら、噛み合わせも含めて、1口腔単位の治療が一番望ましいように思う。しかし一方では患者サイドの要望もあるから、説明が不可欠になるが、現場を見ていると話をする時間が全くない。患者が多ければ多いほどその傾向が強い。そうすると患者を流すように診療をせざるを得ない。逆に計算すると、1レセプト単価が1,850点くらいになると、1日8から10人で充分採算がとれる。患者負担は3割負担で、5,550円だが、この程度の負担なら充分支払えると思う。医療の品質と医療費負担をどのようにバランスさせるかは、国民の選択に任されるべきで、そのための正確な情報を的確に素早く提供することが重要なのではないか。国民の多くは少々の負担増でも健康になりたいという思いを共有しているのではないか。厚生労働省の舛添大臣は“聖域なき”厚生労働省改革を実施しているが、診療報酬についても医療の品質という視点で見直しをしてもらいたいと思う。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2009年 8月号より転載〕