コラム

今月のコラム

2012年 9月号

歯科医院経営を考える(420)
~カンファタブル・ライフ・シンドローム~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 日経は7月の日曜版で「デジタル新市場、日本勢の影薄く」として特集を組んでいる。主なデジタル分野で日本の地盤沈下が著しく、スマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット(多機能携帯端末)では日本企業の影さえ見えない状況だ。2011年のタブレットの世界出荷台数は9776万8000台というから約1億台で、今後もノートパソコン等に置き換わるというから、世界的な規模で急拡大する可能性が大きい。タブレットのシェアー1位はアップルで41.4%、2位アマゾンが22.3%、3位バーンズ・アンド・ノーブルで7.2%。全てアメリカの会社である。スマートフォンの第1位は韓国のサムスン電子の19.1%、アップルが2位で18%、3位フィンランドのノキアが15.6%であり、日本企業は影さえ見えない。薄型TVでもサムスン電子が23.8%で1位、同じ韓国のLG電子が13.7%で2位、第3位がソニーの10.6%となっており、日本勢のかつての勢いは影もない。

 

最近のニュースでもシャープの2012年3月期は2900億円の赤字で工場売却等を計画しているし、ソニーでも2200億円の純損失で従業員の大量解雇を進めていて、その退潮ぶりには目を覆いたくなる。日本が強いのはカメラのような精密機械やNC装置(工作機械や産業用ロボットの動きを数値的に制御するシステム)が中心で、自動車の存在はまだまだ大きいが、エレクトロニクス分野では退潮が著しい。駆動機構の小型化等の洗練されたものづくり技術が得意のビデオカメラやインクジェットプリンターのシェアーは高く、日本は伝統的な機械系の市場での強さとともに多関節ロボットや産業車両等では世界シェアーの首位を占めている。しかしソフトウェアがものをいう携帯電話端末市場ではアップルやサムスンは勿論中国にも劣後している。アナリストの若林秀樹氏は「日本の電機メーカーは当該機器の世界市場が1億台を突破すると、途端に競争力を失う」と指摘している。またペンシルベニア大学のフランクリン・アレン教授は、「日本はカンファタブル・ライフ・シンドローム(快適な生活症候群)に陥っている」と指摘し、「日本からアイフォーンやアンドロイド(米グーグルの基本ソフト)が生まれなかったのは何故か?何故市場から脱落してしまったのか?それはグローバルな融合を果たせなかったからだ。世界トップレベルのテクノロジーを持っていても、他国と交じり合わねば国際シェア一に食い込めるような製品は開発できない」と指摘している。

 

今業績不振を理由に中年の技術者が解雇されるケースが増えている。その中年技術者が韓国、中国、台湾企業に再就職することによって技術移転が進んでいるといわれているが、人材の確保と人材の活用を真剣に考えないと優秀な技術の海外移転が急速に進み、あっという間にシェアーを奪われる。「技術は金を生むが、技術者はかねを使う」等と人材を軽視した経営はやがて市場から消えていく運命にあるのではないか。同時に海外から優秀な人材を取り込むことだ。歯科医院経営においても人財の活用がその医院の存在を決定づける重要なファクタ一になってきている。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2012年 9月号より転載〕