コラム

今月のコラム

2010年 1月号

歯科医院経営を考える(388)
~日本の財政事情~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 今政府は来年度(2010年)の国債発行額を44兆円にするかどうかでもめている。2010年度の概算予算の要求額が96兆円、不景気で税収が落ちて47兆円しか入らないという。それを国債で埋めてもなお歳入不足になるからである。

 

 財務省の平成21年9月末現在の国債残高表によれば、内国債694兆2982億円、借入金が56兆2036億円、政府短期債が114兆208億円、それに政府保証債務が45兆6008億円で、合計910兆1234億円となっている。税収が47兆円だとしているから税収の20倍近い恐るべき借金である。

 

 日本の場合、日本銀行の統計によれば個人の金融資産が1400兆円あるという。ところがこのうち、400兆円は家計自身の住宅ローン等を抱えているために帳消しとなり、約300兆円は株やファンドを通じて企業部門に投資されており、200兆円が海外に投資されているという。残りの500兆円は一般政府の負債をファイナンスするのに使われているのだという。910兆円から500兆円を引いた約410兆円分は郵貯銀行や一般銀行の預金を通じて、国債の購入に充てられていると、慶応義塾大学の池尾教授が指摘している。(週刊東洋経済09年10月17号)しかも一般政府へのファイナンスの500兆円も、実態は公的年金等の積立だというから、1400兆円といっても投資している500兆円以外は、ほとんど借金の担保に入っているようなものである。日本はGDP(国内総生産)の170%に及ぶ国債(借金)があるのに、国の信用格付けが落ちないのは、そのほとんどを国民が買っているから国際的な信用ランクが落ちないだけなのだ。ところが個人が所有している国債を老後資金のために国民が一斉に売り出したら、日本の国債は暴落すると同時に金利が高騰して一気にインフレになる可能性があると同教授は指摘している。国民が一斉に国債を売るという事態が起こらないことを祈るばかりだ。戦後昭和23年頃に自宅に5銭や10銭の国債が何枚もあったが、物価が暴騰して紙くず同然で、玩具にして遊んでいた記憶がある。従って10年以上の長期国債はもたない方が賢明であると思う。

 

 日本の民間銀行は稼ぎが悪く、その多くは国債を購入することで辻褄合わせをしているといわれる。超低金利で資金を集め、それを国債で運用してなんとかしのいでいるが、このような民間銀行や国の経済を見据えると、将来展望が極めて厳しいものにならざるを得ない。医療の確保は最重大課題であり、簡単に削られるものではないが、いずれにしても医療の長期展望をする場合、国の財政を視野に入れて考えざるを得ない。特に歯科医療の場合は将来保険財政の圧迫を受けて、緊急性が低いという判断をされれば点数が上がらないか、材料や補綴が保険からはずされるか、もしくは混合診療を認める方向に動く可能性が高いと思う。そのような事態も視野にいれて「今何をするか」を考え準備しておくべきである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2010年 1月号より転載〕