コラム

今月のコラム

2012年 6月号

歯科医院経営を考える(417)
~少子化対策の意味~

デンタル・マネジメント
コンサルティング

稲岡 勲

 先進国では軒並みに少子化が進んでいるが、唯一フランスだけが少子化を脱した国と言われている。WHOが2009年に発表している合計特殊出生率での先進国の一番はアメリカで2.1、次いでフランスの1.6である。最低は韓国の1.2で日本は1.3だ。フランスが採っている少子化対策は実にきめ細かい。

 

出産、育児に対する公的な助成は、①妊娠・出産手当(妊娠5か月~出産)すべての費用の保険適用、②乳幼児手当(妊娠5か月~生後3歳)…子供1人で月額約23,000円、③家族手当(1ユーロ=140円換算)は子供2人以上で月額16,109円(子供1人は手当なし)以後子供が1人増えるごとに月額20,639円が追加され、子供が20歳になるまで支給される。更に子供が成長していくに従って支給額も増え、11歳~16歳までは月額4,530円がプラスされ、16歳以上になると8,055円に増額される。④新学期手当(小学生以上)年に約29,000円、⑤産後の母親の運動療法…保険全額支給、⑥双子若しくは子供3人以上など…家事代行格安派遣(週1~2回)、⑦片親手当…子供1人で月額約76,000円、1人増える毎に月額19,000円支給、これだけではない、出産休暇が産前6週間、産後10週間(日本は8週間)であり、休暇中は所得の84%が補償されている。また育児休業手当は子供が3歳になるまで取得することが可能だが、その間全面的に職業活動を停止した場合には月額67,000円、50%~80%稼働で月額39,000円が受け取れる。フランスの少子化対策費用はGDP(国内総生産)の2.8%に対して日本はわずか0.6%である。フランス女性の場合、6歳未満の子供を持つ母親の就業率は、日本の場合35.2%に対して、フランスは64.7%だというが、上記の少子化対策を見れば当然だと思う。しかしフランスは何故こうまでして人口維持に力を入れるのか?地続きの他国からの侵略で争った歴史もあり、現在の人口を維持することがヨーロッパにおけるフランスの地位を保つことにつながるということだろう。

 

ところが税制面でみると、フランスの所得税はかなり低い所得に対しても課税されており、非課税所得額は5,963ユーロ(1ユーロ=140円換算で834,820円)までであり、5,964ユーロ~11,896ユーロ(1,665,440円)までが税率5.5%、11,897~26,420ユーロが14%の税率になっている。最高税率は70,830ユーロ(約991万円)以上で41%である。ところで税金計算をするときに、所得額を子供の数に本人の1を足した数で割って税率を掛けることになっている。課税所得75,000ユーロだとすると税率41%で30,750ユーロの税額になるが、子供3人なら4で割ると18,750ユーロになり、これに税率14%をかけて2,625ユーロになる。この2,625ユーロ×4=10,500ユーロが税額になる。高い税率つまり高額所得者ほど子供の数による減額効果が大きいのである。日本の場合は、生む、生まないは個人の自由という意識が強いが、フランスの場合明らかに国家戦略として意味深長な制度になっている。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2012年 6月号より転載〕