コラム

今月のコラム

2014年 3月号

歯科医院経営を考える(438)
~患者との強固な絆を~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 

 比較的大都市やその周辺の市に多く設立されているサービス付高齢者向け住宅は営利法人が経営する有料老人ホームだが、そうした老人ホーム等との間で契約を結び、歯科医院に在宅診療への紹介を行うという患者紹介ビジネスや架空の診療所で往診のみを行う歯科医院の存在が問題になっている。筆者の近くでもバラックの診療所を建てチェアーを1台置いて、朝から晩まで毎日往診だけしている医院が出てきて大騒ぎになった例もあるが、1年ほどで潰れて長続きしなかった。最近の患者紹介ビジネスの例では老人ホーム等の施設と歯科医院との間に会社が介在し、先ず老人ホームとの間で契約を結び、在宅診療の紹介を受ける歯科医院から手数料として診療報酬の20%前後(定額のケースもあるようだが)を受け取り、一方老人ホームにもいくらかの報酬を支払うというものである。某企業の場合、実質は会計事務所が経営しており約30施設と契約してかなり稼いでいる会社もあると聞いている。知り合いの歯科医院で在宅診療を実施している医院があるが、以前に来院してきていた患者が寝たきりになったとか、足が悪くて通院できないからやむを得ず往診に出かけている医院が圧倒的に多く、採算を考えると積極的にはできない状況にある。

 

その一方歯科の往診に20分ルールといわれる制約を設けたり、患者2人以上診た場合に評価が変わるというのも上記の患者紹介ビジネスの実態を想定しての対策なのだろうか?医科にはそのような制約はないと聞くが、真面目に往診している先生からみれば腹立たしい制約と言わざるを得ない。しかも在宅診療で平均点数が高くなると指導の対象になり、あらぬ疑いを受けるとなれば無理して往診しようという意欲が落ちてしまう。今厚労省は本格的な調査に乗り出しているというが、こうした指導の在り方を含め、根本的に歯科の在宅診療のあり方を見直す必要があるのではないか。真面目に真剣に取り組んでいる歯科医院を腐らせ、このような法律の隙間で稼ぐ企業をはびこらせる現状を何とかできないものかと思う。

 

今回の診療報酬改定では歯科医院の訪問診療に1000円の加算が認められたが、具体的にどのように運用されるのかに注目したい。ただ診療報酬だけでこのような企業を排除することは不可能だと思う。研究会名目で歯科医師を集めて高額な入会金を取る業者も出てきていると聞くが、そのような業者の甘い誘いに乗らないことだ。それよりも自医院に通院してきた患者の口腔意識を高め、患者との絆を高めておけば、その患者が仮に老人ホームに入っても患者からの強い要求であれば、施設の方も無視することはできまい。今回の診療報酬改定の動きから、国も病院から在宅へと比重を移してきており、今後高齢化が進むとともに在宅診療への要望が強くなると思う。在宅診療を考えておられる医院は、先ず通院してきている患者との絆を強めることだと思う。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2014年3月号より転載〕