コラム

今月のコラム

2015年 6月号

歯科医院経営を考える(453)
~治療技術習得の方法~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 最近高度先端医療を実施している大学病院の腹腔鏡手術に関する死亡事故が問題になっている。群馬大学病院では’10~’14にかけて肝臓の切除手術を受けた患者が術後4か月未満に8人死亡したとされる。また千葉県がんセンターでは術後に11人の患者が相次いで死亡したと問題になっている。ただこの間の治療件数が何例あったのかが公表されていないから死亡事故の比率はわからないが、’10年9月まで勤務していた麻酔科医(42歳・女性)が内部告発をしており、それによれば執刀医はこの術式の経験が過去に1例しかなかった上、再手術で麻酔を担当したのは、研修中の歯科医師だったと証言している。こうした状況から腹腔鏡手術をやめるよう、センター長(当時)に直訴した外科医もいたという。内部告発した麻酔科医によれば、研修という形をとりながらセンターでは違法にも何人かの歯科医師を雇い麻酔科医の代わりに手術の麻酔をさせていた。(日本歯科新聞・田辺功)実際に歯科医師による麻酔で、患者が植物状態になる事故も起きていたというから深刻な問題である。一般の市中病院ならともかく、高度先進医療を標榜している病院でこのような状況だとすれば問題だ。しかし治療技術というものは治療の症例を重ねていくことで技術が身に着くものだから、技術習得にとっての教育方法の確率が不可欠ではないか。しかし麻酔科医の代わりに歯科医師が麻酔を担当するというのは問題だと思う。

 

今から20数年前に虫垂炎にかかり、それも手遅れに近い状況で緊急入院したことがある。その病院の外科医のN先生は県下では名医として知られた先生だったから安心して手術を受けた。しかし下半身麻酔(従って何もかもがよく聞こえたし、意識も明瞭だった)の後に手術が始まってみると、助手の若い先生が執刀することになり、N先生は指導医として一緒に立ち会ってくれたが、「エッ!」と驚いていると、「あぁ!そこは切ってはだめだ!」とか「そこはもう少し縦に切らないとダメじゃないか!」と大声で指導する声を聴いて冷や汗、汗びっしょりになった。このようなことなら全身麻酔にしてくれたらよいのにと恨んだものだ。

 

盲腸手術のような簡単なものならそれでもよいと思うが、昨今のインプラント埋入手術のような高度な治療の場合は体系的な方法の確率が不可欠だと思う。昨年筆者の女房が近くの歯科医院で上顎前歯にインプラント埋入手術を受けたが、上に突き抜けてしまいインプラントの金属が鼻腔にはいり取れなくなり、奈良医大に連れて行き取り出すのに3時間もかかるという経験をした。問題なのは突き抜けていることをその先生は気づかず、うがいをしようとしたら鼻から水が流れて初めて気が付いたと聞いて驚いた。前にもふれたが、アメリカインプラント学会のように全ての道具、材料、人員をそろえて後進国に出向き、埋入を希望する患者に朝から晩まで次々と無料で埋入し、一人の歯科医師が一週間に十数症例をこなすという技術習得方法も一つの選択肢なのかもしれない。

 

(つづく))

 

〔タマヰニュース2015年 6月号より転載〕