コラム

今月のコラム

2015年 9月号

歯科医院経営を考える(456)
~わたぼうし音楽祭の40周年~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 障害を持った人たちが作った詩をメロディーにのせて競い合う「わたぼうし音楽祭」という音楽祭がある。この音楽祭は1976年奈良で生まれ、今年で40回という長期にわたって続けられており、日本各地で「わたぼうしコンサート」として、海外では「アジア・太平洋わたぼうし音楽祭」として開催されている。筆者が所属しているパイロットクラブという奉仕団体が全面的に支援していることもあり、会長として全国から寄せられた691作品の詩の中から、優秀な詩の選別から賞の授与まで関与させてもらった。

 

今年の「わたぼうし大賞」は中学生の丸井沙希さんが作詞した「花」が選ばれた。「耳に付けているのは何?」そう聞かれるたびに笑ってごまかした 不器用で上手く言葉で伝えられない ずっと長い髪もくくらない 皆が笑ったりする理由も分からないまま ただ話についていくことだけで必死だった 「いつまでこんな日が続くのかな」そう思っていた 自分の世界は蕾のままだった 「話をしよう」って1人の女の子 また必死で言葉を 伝えようとした自分が居た ふと周りを見ると とつぜん色めいてきた気がした気づけば皆と目と手で会話してた 心から笑えるように 髪がくくれるようになった 自分の世界に色とりどりの花が咲いた これに大学生の黒木祐里さんが作曲をして完成させている。閉ざされた自分の心が、ふとしたきっかけで開かれ、周囲の人たちとの交流の中で自分の世界が開かれていくという素直な喜びと感動を詩に託して歌い上げている素晴らしい詩である。

 

「障害のある人たちが書く詩は、生きることの喜びや哀しみ、命の尊さや人間の素晴らしさを歌っています。そこには人間としての大切なものを忘れがちな、今の社会へのメッセージがあふれています」と主催している「たんぼぼの家」の冊子にある。障害のある人々がイキイキと生きる社会、また周囲の人々もそれを温かく見守る社会というのは、せいぜいここ10年程度のことで、それまでは、社会の片隅で隠れて過ごしていたというのが実態である。現在でもまだまだ偏見や差別が存在しているが、平成18年に「障害者自立支援法」が施行され、そこでは身体障害、知的障害、精神障害の一元化や実施主体の市町村への一元化を図り、相談支援体制の強化、障害児支援の充実、強化が図られた。平成23年には「障害者基本法」が改正され、全ての国民が障害の有無にかかわらず尊重される共生社会の実現を目指すこと、そうして同年には「障害者虐待防止法」が、平成25年には「障害者差別解消法」(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)等が次々に成立した。こうした歴史をみるとわたぼうし音楽祭の40周年と言うのはとてつもない業績だ。歯科医療においても今後障害者治療の面で大きな役割が期待されていると思う。

 

(つづく))

 

〔タマヰニュース2015年 9月号より転載〕