コラム

今月のコラム

2016年03月号

歯科医院経営を考える(462)
~日本の歯科医療費の問題点~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 ある医療法人(医科)の事務長と話す機会があり診療の効率化という話題になったときに、その事務長の話したことが強烈に印象に残った。それは病名ごとに診療手順を決め最も点数が高くなるよう診療モデルを作っており、勤務医にそのマニュアルを渡しそれに沿って診療するよう指示を出しているというのである。患者の個体、病状は種々様々であり従って治療内容も違ってくると思うが、マニュアルに沿って治療するというのは如何なものか?と素人ながら思ったものである。

 

しかし今病院経営はかなり厳しい現状にあるという。「特定疾患療養管理料」は高血圧、胃炎、糖尿病等の32の疾患が認定されており、その病名が付けば外来診療で自動的に225点が加算され、これに再診料72点、外来管理加算52点が加算されて349点となる。しかしこれは開業医だけの点数で200床以上の病院では加算されないのだという。専門病院の外来で1時間手術の説明をしても1点にもならないというが、大きい規模の病院ほど経営環境は厳しい状況にある。

 

一方で歯科医療経営もじり貧状況にある経済学の視点から医療を分析した本を多く出版されている井伊雅子一橋大学教授が日本歯科医師会雑誌(2008年5月)に「データに基づいた政策論議の重要性」と題して記事を掲載されている。その中で、ワシントンDCに住んでいた時に通院していた歯科医院の院長に「ワシントンDCには大使館や国際機関も多く、世界各国からの患者を治療しているが、日本人の治療をして驚くことがある。自分たちが使っている歯科関連の機器は日本製のものが多く、最先端の歯科技術は日本が世界一だと思うが、患者として接する日本人の歯の状態は本当にひどい人たちがほとんどだ。一般の人たちはなぜ日本の高い技術の恩恵をほとんど受けていないのだろうか」と言われたと紹介し、日本の歯科医療の問題点は予防が保険適用されていないことだと指摘されている。

 

もう一つの問題点は、歯科医療を安く受けられることはよいが保険診療が余りにも安すぎることだと指摘されている。現在の歯科治療の保険点数では、多くの患者を診ないと採算が取れないという実態が浮かび上がる。井伊教授は政府の社会保障審議会の医療保険部会の委員もされていたそうだが、その部会では各団体の利益を代表している委員が、それぞれの立場から発言し、最後のまとめは、いつの間にか厚生労働省から出ているという感じであったと述懐されている。最近はレセプトの電子化が進みいろんな角度からの分析ができるようになったと聞くが、歯の状況がよい患者ほど医療費が低くなっていることが証明できれば今の歯科医療を根本的に改善する方法が見いだせるのではないかと思う。

 

(つづく))

 

〔タマヰニュース2016年03月号より転載〕