コラム

今月のコラム

2016年12月号

歯科医院経営を考える(471)
~経営のジレンマ~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 11月4日付毎日新聞のトップ記事で「元厚生官僚が不正指南」「診療報酬資料改ざん」として「医療Gメン」をしていた元厚生労働省の官僚が、大阪の歯科医院に不正が発覚しないよう資料の改ざんを指導していたという記事を掲載した。その手口は実に微に入り細にいる方法で、個別指導を実施していた官僚でなければできないような指導内容である。カルテや技工指示書の書き換えから、治療を装うためにレントゲン写真を銀色の色鉛筆で着色し、2年以上前の書類を作り直す際は、水で割ったコーヒーに漬け、ドライヤーで乾燥させ、検査の数字はいろいろな太さのペンで書くように指示していたという。依頼した歯科の先生は、余りの偽装行為に恐れをなして途中で断り不正請求として数百万円を返還して決着したというが、こういう話にむなしさを感じるのは筆者だけではないと思う。ただ厚労省がどう決着をつけるのかに注目したい。歯科医院の経営がそれだけ厳しい状況下にあるという一面も見せていると思うが、今や医科歯科を問わず大学病院でも経営を意識せずにはいられない状況にある。長崎大学熱帯医学研究所内科教授の有吉紅也先生は10月23日付日経紙上で「医療の本質と経営のジレンマ」と題して意見を述べておられる。「それまで医師人生の大半をアフリカや東南アジアで過ごし、日本での診療経験が限られていた私はくたくたになるまで時間をかけて診療した。現在もそれは変わらない。いつしか入院患者の数が気になるようになっていた」そうして以前に大学から派遣されていたフィリピン・マニラの貧困街にある国立感染症病院での出来事を思い出して、「ある日のこと。普段はごった返すこの病棟が、ほぼ空だった。看護師や医師が皆こコニコしている。その光景に例えようのない安堵感を覚えた。患者が少ないのは、たまたま何も流行していなかったからだ。それがこんなにもうれしいことかと改めて思い知った」と述べ、「日本の医療は世界一と思うところがたくさんある。しかし過剰な検査や投薬を控え、良心的な医療を提供する病院が、経営面で不利益を被るとすればシステムのどこかが間違っている。医師たちの労力が医療の本質から離れたことに削がれているように感じ、残念でならない」と。治療行為に対して○○点が請求できるという診療システムそのものの限界が見えてきているのではないか。患者の健康維持・回復にどれだけ貢献したかによって点数(報酬)が決まるというシステムはできないものかと思う。

(つづく))

 

〔タマヰニュース2016年12月号より転載〕