コラム

今月のコラム

2018年 6月号

歯科医院経営を考える(489)
~親子承継におけるスタッフの採否~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 ある歯科医院で父親から息子への事業承継を実施することになったが、息子は父親が使っていた従業員7人(パート2人)のうち、衛生士の3人(内パート1人)とパートのアシスタント1人は採用するが、後の常勤3人は雇用しないと言って問題になった。この場合新しい院長になる息子に雇用義務はあるのか?が問われるが、社会保険労務士は雇用の義務があるという。院長は代わっても同じ事業所だという理由である。しかし医療機関の場合は、保健所に管理者の届を提出し、明らかに管理者が代わり、診療方針も変るから、診療内容も変わる場合がある。それでも雇用義務があるのか?親が日々の診療でお世話になったという道義的な責任はあるかもしれないが、それを、跡継ぎの次期院長にまで背負わせるのは如何なものかと思う。そこで一旦全員解雇して全員に退職金を支払い、その後改めて次期院長が必要な従業員を雇用するという方法を取った。ところが雇用されない従業員2人(1人は解雇を了解)から不満が出てきて、何故我々は採用されないのか?という。若い院長から見て管理統率できないという懸念からだろうが、このような場合は理由があってないようなものである。最終的には雇用されないスタッフには、「再就職活動の費用」という名目で規定の退職金にプラス1ヵ月分の給与額をプラスして支払い、何とか解決できた。現在は人手不足で就職が容易だから解決したが、従業員の解雇という問題は難しい問題である。今回のケースは労働法の「整理解雇」に該当すると思うが、整理解雇には、①人員削減の必要性、②整理解雇回避のための努力、③解雇対象者選定の合理的な基準、④解雇対象従業員との誠実で十分な協議(納得を得る努力)等々、合理的な基準が必要と規定しているが、実際正直にその合理的基準を考えだしたら収拾がつかなくなるのである。最終的は次期院長(息子)の合理的で納得のいく理由と、院長の積極的で誠実な態度と努力が退職するスタッフの心を動かすのだと思う。それも短い期間に一気にことを運ばないと、採用予定の従業員までもが退職しかねないので注意が必要だ。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2018年 6月号より転載〕