コラム

今月のコラム

2020年09月号

歯科医院経営を考える(515)
~センメルヴェイス反射~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 内閣府は今年4~6月期の国内総生産(GDP)は年率換算で27.8%の減少だったと発表した。リーマンショックと言われた09年1~3月期でさえ17.8%だったから、戦後最悪の不況と言わざるを得ない。コロナウイルスの感染を避けるために、自宅待機やテレワーク、多くの観劇やスポーツ観戦が中止となり経済が止まってしまっている現状にある。国民の経済活動を止めたのだから、経済は停滞する。問題は経済が停滞することで非正規社員や臨時雇用者の生活ができなくなることである。今年6月12日参議院において第二次補正予算が成立し、31.9兆円の国債発行となり、第一次補正予算額25.7兆円と合わせて57.6兆円である。国民1人当り10万円が配布されたし、歯科医院にもスタッフ1人当り5万円、医院に対して100万円の補助金が提供されたが、こうした国の出費によって国民の生活を支えるべきである。それも1回きりで終わりではなく、半年くらいの長期にわたって補助すべきだ。そのために思い切った国債の発行は不可欠である。ところがこの段階になって多額の国債発行に異議を唱える経済学者がいる。国の借金を増やして財政が破たんしてよいのかという。名前の通った有名大学の教授、ノーベル経済学者のジェームズ・マギル・ブキャナン教授でさえ反対しているというから驚きだ。経済学者の間では通用しない理論のようである。センメルヴェイス反射という熟語がある。通説にそぐわない新事実に直面すると、人は拒絶するという傾向、常識から説明できない事実は受け入れがたいという傾向を指す言葉として使われている。この言葉は、ウイーン総合病院産婦人科に勤務していたセンメルヴェイス・イグナーツが、産褥熱(経膣分娩でも帝王切開でも、子宮内に細菌が入り感染を起こすことで発症するとされる、今日に言う接触感染)の可能性に気づき、その予防策として、医師のカルキを使用した手洗いを提唱したが、存命中はその理論や方法論が理解されず、逆に医師仲間から排斥を受け、最後は精神病院に強制的に入院させられて、そこから逃げだして死亡したとされる。国が発行する国債についての考えもセンメルヴェイス反射に近い。特に財務省が意図的に誤った考えをまき散らしているから始末が悪い。有名大学の教授でさえ、財政状況をさらに悪化させる国債の発行に否定的な意見を平気でテレビ番組でしゃべっているから情けない。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2020年09月号より転載〕