コラム

今月のコラム

2021年10月号

歯科医院経営を考える(528)
~将来を見据えての投資を~

デンタル・マネジメント
コンサルティング


稲岡 勲

 今年8月、将来のノーベル・化学賞の有力な候補者と言われている元東京理科大学学長の藤嶋昭先生が研究チームを伴って中国の上海理工大学に移籍されたというニュースは衝撃的だった。藤嶋先生は故本多健一先生と共に、酸化チタン電極に強い光を当てると酸化チタン表面に光触媒反応が起きることを発見され、「本多-藤嶋効果」と呼ばれ注目されていた。上海理工大学では本多研究所を立ち上げるという。移籍された理由は明らかではないが、研究チームを伴っていかれるということは研究費等の資金的な問題ではないかと想像される。現在中国経済は猛烈な勢いで拡大している。IMFによる主要国の1996年(平成8年)から2017年(平成29年)のドル建てGDP(国内総生産)は、中国が13.9倍、インドが6.5倍、ロシアが3.6倍、韓国2.6倍、米国2.4倍、イギリス1.9倍、フランス1.6倍、イタリア、ドイツが1.5倍、これに対して日本は1.0である。つまりこの11年間日本経済は全く成長していないということである。こうした事情を背景に研究開発や事業投資に対して将来への十分な備えが出来なくなっているということである。このような状況が続くと、日本はいよいよ貧困化していくことは間違いない。また1997年を100とした場合の、2018年における日本の平均経営指標は「売上高」は107、経常利益が31.9、配当金が620、平均役員給与額が132、設備投資が98、平均従業員給与が96である。注目すべきは売上高が11年間に7%しか伸びていないのに、配当金の伸びが6.2倍に、役員報酬も32%も伸びているのに、設備投資が2%もダウンしており、従業員の平均給与額も4%ダウンしていることだ。これを放置すれば日本経済はますます疲弊して、優秀な頭脳や技術が中国等の外国に流れていくことになる。しかも株の配当金に対する税金は最高でも20%しか課税されないという仕組みになっている。日本経済を活性化して国民全員の所得を引き上げる政策をとらない限り日本経済は回復しない。自国通貨建ての国債は破綻しないと証明されているのだから、国債の発行を増やして国が積極的に投資するべきである。

 

(つづく)

 

〔タマヰニュース2021年10月号より転載〕